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最高裁判所第三小法廷 昭和43年(あ)2734号 決定 1970年6月30日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人本人の上告趣意は、事実誤認の主張であり、弁護人伊藤幸人の上告趣意第一点は、事実誤認の主張、同第二点および同第三点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない(本件変造にかかる「大沼郡東尾岐村字限地図」が公務所たる福島地方法務局高田出張所の署名のある公図画であるとした原審の認定判断は相当である。)。また、記録を調べても、同法四一一条を適用すべきものと認められない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号、一八一条一項但書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(田中二郎 下村三郎 松本正雄 飯村義美 関根小郷)

<参照・原審判決理由抄>

弁護人の控訴趣意第一点について

論旨は、原判示の変造行使にかかる各字限図面は署名もしくは捺印のない公図画と認めるべきものであつて、原判決が、これらを公務員たる東尾岐村戸長長嶺平八、同副戸長川嶌林松らの署名捺印のある同戸長長嶺平八ら作成名義のものであると認定したのは、証拠によらないで事実を認定したかまたは事実を誤認したものである旨主張する。ところで、<証拠>ならびに<各証言>をも参酌して検討すると、福島地方法務局高田出張所は、昭和二五年法務府令第八八号土地台帳法施行細則の施行による土地台帳事務の税務署から登記所への移管にともなつて、同年八月、所轄坂下税務署から、福島県大沼郡東尾岐村に関する土地台帳とその附属地図の各引継移管を受けたもので、右の地図は、東尾岐村の全図一枚と字ごとの図面計一五一枚とを表紙をもつて編綴してあり、全図には、その作成年月日および作成者を表わすものと考えられる「明治八年十二月」、「東尾岐村戸長長嶺平八、副戸長川嶌林松」等の記載がなされその各名下に押印が施されているのに対し、字ごとの図面にはそのような記載ないし押印が何ら見当らないのであるが、これらを編綴した右表紙には、「東尾岐村大字東尾岐」「字限地図」「福島県直税署」との各記載がなされ、また同表紙の裏面には、字ごとの図面計一五一枚に見合う各字名が列記されていて、それが、字ごとの右各図面に関する目次であると認められるものであること、福島地方法務局高田出張所では、右のようにして引継移管を受けた字限地図一冊につき、自らの手許で、さらに、「大沼郡東尾岐村」「字限地図」「福島地方法務局高田出張所」との各記載をなした表紙をこれに付したうえ、(もつとも、その際、便宜これを三分冊とし、それぞれに右同様の表紙を付した。)これを前記土地台帳法施行細則第二条にいわゆる土地台帳の附属地図として同出張所内に備え付けたものであること、本件は、いずれも、右の字ごとの図面につき改ざんがなされたものであることがそれぞれ明らかである。しかして、右の字ごとの図面が、その作成の沿革上、全図の作成者と同一の者によつて作成されたものであるか否かは、本件の証拠上これを確認するに由ないところであり、むしろ、所論の指摘するように、全図とは別個の機会に別人の手によつて作成されたものであると推察すべきふしも多々あるのであつて、また、全図との間に契印等が格別施されているわけでもないのであるから、原判決が、本件改ざんにかかる右の字ごとの図面につき、それらが全図といわば直接的に一体をなしているものと速断して、全図同様に、東尾岐村戸長長嶺平八らの署名捺印のある同戸長ら作成名義のものである旨認定したのは、その限りにおいて当を得ないものといわなければならないけれども、さりとて、所論のように本件改ざんにかかる字ごとの図面が各個独立のもので、署名もしくは捺印のない公図画であるものと断ずることもまた相当ではないのであり、先に検討したような事実関係に照らすときは、右の字ごとの図面は、むしろ、公務所たる福島地方法務局高田出張所の署名のある同法務局出張所名義の「大沼郡東尾岐村字限地図」に包含された内容をなすもので、結局、公務所の署名のある公図画であると認めるに妨げないものというべきである。してみると、本件改ざんにかかる字ごとの図画を刑法第一五五条第二項の公図画であるものと認定した原判決は、その結論において正当であつて、原判決に存する前記のような事実誤認は、いまだ判決に影響を及ぼすべきものとは認められない。記録および当審における事実取調の結果を検討しても、原判決に所論のような判決に影響を及ぼすことが明らかな法令違反ないし事実誤認の違法を発見することはできない論旨は結局理由がない。

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